ETHEREUM NETWORK UPGRADE

ブロックの作り方と、
その検証のしかたを、
同時に作り変える。

Glamsterdam(グラムスターダム)は、The Merge以来もっとも構造的なEthereumのアップグレードと呼ばれています。主役は2つ。読むより、動かして掴んでください。

EIP-7732 · ePBS EIP-7928 · BALs 初心者〜中級者向け
1つのブロックが、合意パートと実行パートに分かれる図 これまで CONSENSUS EXECUTION ひとつの塊 GLAMSTERDAM これから CONSENSUS 合意 = ePBS EXECUTION 実行 = BALs 切り離して、別々のリズムで
DATA

Ethereumはどこまで来たか

直近のアップグレードはL2を安くすることに集中してきました。Glamsterdamは、L1そのものの実行能力に踏み込む回です。

  • 2022.09
    The Merge
    PoWからPoSへ。マイナーによるブロック生産が終わりました。
  • 2023.04
    Shapella
    ステークしたETHの引き出しが可能に。
  • 2024.03
    Dencun
    Blobを導入し、L2の手数料が劇的に下がった回。多くの人が体感した唯一の変化かもしれません。
  • 2025.05
    Pectra
    バリデータ運用とアカウントまわりの改善。
  • 2025.12
    Fusaka
    PeerDASでL2のデータ可用性をさらに広げました。
  • 開発中
    Glamsterdam
    ここで矛先が変わります。L2ではなく、L1自身がどれだけ処理できるか。ブロックの作り方と検証のしかたを、同時に組み替えます。
MAP

なぜ「Glamsterdam」という名前なのか

2つのフォーク名をつなげた合成語です。名前そのものが「2層を同時に変える」ことを表しています。

Gloas
CONSENSUS LAYER
コンセンサス層のフォーク名。星の名前が順番に使われます。
+
Amsterdam
EXECUTION LAYER
実行層のフォーク名。Devconnectの開催都市が使われます。
Glamsterdam
2つは別々のフォークですが、ひとつのネットワークアップグレードとして同時に有効化されます。
MAP

主役は2つ。役割はきれいに分かれています

このサイトはずっとこの対比で進みます。色も最後まで揃えてあります。紫が「作る側」、緑が「検証する側」です。

ブロックが作られてから検証されるまでの流れと、2つのEIPが効く場所 🏗️ ブロックを作る 📡 配る 🔍 検証する 確定 ePBS BALs

ブロックが生まれてから確定するまでの一本道。ePBSは入口を、BALsは出口の手前を作り変えます。

EIP-7732
ePBS
CONSENSUS LAYER

解く問題:ブロックを誰がどう作るか

いまは外部のリレーという仲介役に信頼を預けています。ePBSはこの取引をプロトコルの中に取り込み、仲介なしで成立させます。実行層の変更もEngine APIの変更も必要ありません。

EIP-7928
BALs
EXECUTION LAYER

解く問題:届いたブロックをどう速く検証するか

いまは実行してみるまで、どのデータに触るのか分かりません。BALsはそれを事前に宣言させます。先に分かっていれば、並列に処理できます。

🐻‍❄️

ちなみにGlamsterdamの公式マスコットはホッキョクグマです。Ethereumのアップグレードにはマスコットを決める仕組み(EIP-8066)があります。

💡 正直ポイント

Glamsterdamはまだ開発中です。どのEIPが入るか、各パラメータがいくつになるか、いつ有効化されるか — いずれも確定していません。全体をまとめるメタEIPであるEIP-7773は、本稿の時点でDraftステータスのままです。このサイトでは、確定していない数字は意図的に書いていません。

BASICS

まず、いまのEthereumを見ておく

02と03の話は、どちらもここが土台になります。急がば回れです。3つだけ掴んでください。

💡

12秒ごとに、世界中が同じ手順を繰り返しています。その12秒の中で「誰がブロックを作るか」と「みんなでどう確かめるか」が起きています。Glamsterdamが触るのは、この12秒の中身です。

1. Ethereumは2階建て

合意層(ビーコンチェーン)と実行層が対になって伸びていく図 CONSENSUS LAYER ビーコンチェーン 順番と投票をまとめる EXECUTION LAYER 実行層 取引を処理して帳簿を書き換える 上下は必ずセットで進む
ビーコンチェーン誰が次のブロックを出すか決め、みんなの投票を集める 実行層送金やコントラクトを実際に走らせ、残高を書き換える 「ビーコン◯◯」合意層側の話だという目印。02で何度も出てきます

Ethereumは2本のチェーンが上下に組み合わさって動いています。「ビーコンブロック」といえば上の階のブロック、「実行ペイロード」といえば下の階の中身のことです。02のePBSは上の階の、03のBALsは下の階の話です。

2. 12秒でひと区切り —— スロット

12秒のスロットを円で表した図 12 SECONDS = 1スロット
1人のプロポーザーが選ばれるスロットごとに、バリデータの中から抽選でブロック提案者が決まります。
残り全員が検証して投票する届いたブロックを検証し、「これが正しい」と証明(attestation)を出します。
締切がある証明には期限があります。間に合わないと、そのブロックは不利になります。

スロット長12秒はGlamsterdamでも変わりません。6秒に半減する提案(EIP-7782)は、今回は見送られました。

DEMO

3. いまのブロックの作り方 —— 仲介役がいる

ブロックを提案する権利を得たバリデータは、たいてい自分では作りません。専門のビルダーに外注します。ただし、その受け渡しには仲介役が必要です。

ビルダーがリレーを経由してプロポーザーにブロックを渡す図 BUILDERS ビルダーA ビルダーB ビルダーC 0.05Ξ 0.11Ξ 0.08Ξ リレー OFF-CHAIN ここに信頼が必要 中身は🔒 PROPOSER プロポーザー = 選ばれたバリデータ ✍️ 中身を見ずに署名する
⚠️ リレーが約束を破ると、バリデータは報酬を取り損ねる

ビルダーは中身を見せずに入札します。プロポーザーは一番高い入札を、中身を見ないまま選んで署名します。両者は直接やり取りできないため、間にリレーという第三者が立ちます。現在、ブロックの大半(およそ9割)がこの経路で作られています。

💡 正直ポイント

「およそ9割」という比率は日々変動します。このデモの入札額もイメージであり、実際の値ではありません。

DEMO

4. いまのブロックの検証 —— 一列に並んで待つ

🤔 まず予想してみよう

ブロックの検証で、いちばん時間を食っているのはどっち?

答え:B。EVMの計算そのものは十分に速く終わります。ボトルネックは、状態(アカウントやストレージ)がディスク上にあり、そこへのランダムな読み出しを待たされることです。しかも、どこを読むことになるのかは実行してみるまで分かりません。だから先回りして準備しておくこともできません。

メンプールとステートの違い、およびブロック内のTXがステートの木を辿る様子 MEMPOOL ブロック前の待合室 ここではない BLOCK — 確定ずみのTX TX 1 TX 2 TX 3 1件ごとに根から葉まで辿る = ディスク読み出し STATE

探しているのはトランザクションではなく、それが触りにいくステート(残高・nonce・コード・ストレージ)の置き場所です。触る先は木のあちこちに散らばっています。

SEQUENTIAL — 1 LANE · 横軸は時間
検証スタート 時間 → 検証おわり
順番待ち(何もできない) ステートをディスクから読む EVMが計算する
5
処理し終えたTX0
全体にかかった時間0
うち、最後のTXの待ち時間0

1行が1トランザクションです。オレンジは「どこを読むのか探して、ディスクから取ってくる」時間、青は「EVMが実際に計算する」時間。1本のレーンしかないので、2本目は1本目が終わるまで、3本目は2本目が終わるまで、ただ待つしかありません。行が右にずれていく分がまるごと待ち時間です。この待ちを潰すのが03のBALsです。

💡 正直ポイント

このデモの時間の比率は、構造を体感するための例です。実測値ではありません。実際には、トランザクションの内容によって読み出しの量も計算の量も大きく変わります。

BASICS

そして、これを全部ひとつの締切までにやる

いまのバリデータは、証明の期限までに3つの仕事を終わらせる必要があります。ここが詰まっているせいで、ブロックを大きくできません。

🔏 合意の検証 署名と、チェーンのどこに繋がるかを見る 軽い
⚙️ 実行の検証 全TXを実行し直し、結果が申告どおりか確かめる いちばん重い
📦 データ可用性 Blobの本体が本当に出回っているか確かめる 重い
証明の期限(4秒) スロット終了(12秒)
スロット N 開始 スロット N+1 →
いまBEFORE
ブロックの伝播
合意
実行の検証
データ
軽い仕事しかしていない

重いペイロードの伝播も、3つの検証も、ぜんぶ赤い線の左。後半はガラ空きなのに使えていません。

Glamsterdam後(ePBS)AFTER
伝播
合意
ペイロードの伝播
実行の検証
データ

順番は上と同じ「伝播 → 検証」。細くなったのは、期限までに済ませる伝播だけ(上の帯と見比べてください)。重い伝播と検証は線の右へ移り、青い枠が次のスロットまで広がります。

時間の流れ →
合意の検証 実行の検証 データ可用性 伝播 重い仕事に使える時間

横方向は時間。赤い線(証明の期限)はいまは4秒で、これは確定した値です。ePBS後の各締切の秒数はまだ策定中なので、位置は仮です。

💡 正直ポイント

この図には秒数を書いていません。スロット内の各締切をどう設定するかは、現在まさに仕様策定中だからです。コンセンサス仕様では時間設定の方式そのものを見直す作業が進んでおり、PTCの締切も「ペイロードが届いたか」「データが届いたか」の2つに分かれる方向です。ここでは順序と、おおよその重さの比率だけを示しています。

EIP-7732 · ePBS

ブロックを「作る側」を、プロトコルの中に入れる

01で見た、リレーという仲介役への信頼。それを仕組みそのもので要らなくします。

💡

鍵は「先に払わせる」こと。ビルダーが約束を破っても、プロポーザーの取り分は守られる。だから仲介役に見張ってもらう必要がなくなります。

MAP

1. リレーが消える

リレーを経由する経路と、プロトコル内で直接やり取りする経路の比較 BUILDERS ABC PROPOSER プロポーザー リレー OFF-CHAIN 信頼が要る第三者 約束を破られても止められない IN-PROTOCOL 署名つきの入札 やり取りはルールの中 破ったらプロトコルが取り立てる

MAP

2. ブロックから中身が抜ける

01の最後で「期限までに済ませる伝播が細くなる」と言ったのは、これが理由です。

BeaconBlockBodyから実行ペイロードが取り除かれ、入札に置き換わる図 これまで BeaconBlockBody attestations deposits … sync_aggregate ExecutionPayload 重い ePBS後 BeaconBlockBody attestations … sync_aggregate SignedExecutionPayloadBid ExecutionPayloadEnvelope 別便で、あとから 軽い = 速く飛ぶ

実行ペイロードが抜けて、代わりにビルダーの署名つきの約束が1行だけ入ります。約束にはブロックのハッシュと、プロポーザーに払う金額が書かれています。

DEMO

3. スロットは3つの結末を取る

ここがePBSの核心です。3つ押し比べて、いちばん下の行を見てください。

スロットNがFull・Empty・Skippedのそれぞれでチェーンに何が載るかの図 合意 実行 合意 実行 ひとつ前 いま見ているスロット 合意 実行 ペイロードなし ブロックなし 💰 プロポーザーに支払い済み
    チェーンに載ったもの 合意 + 実行
    プロポーザーへの支払い 支払われる

    💡

    ビーコンブロックさえ出れば、プロポーザーは必ず払われる。ビルダーがペイロードを出さなくても(Empty)、取り分は守られます。これを「プロポーザーの無条件支払い」と呼びます。リレーに見張ってもらう理由が、ここで消えます。

    MAP

    4. お金はどう動くのか

    払うのはビルダー、もらうのはプロポーザー。ブロックを作らせてもらう代金です。

    なぜ作る側が払うのか

    ブロックから生まれる価値が、入札とビルダーの利益に分かれる図 ブロックから生まれる価値 手数料 + 並べ方しだいで生まれる利益 入札としてプロポーザーへ 競り合うので、大部分がここへ流れる ビルダーの利益 残った差額が取り分 競争が激しいほど入札は上がり、ビルダーの取り分は薄くなる
    プロポーザーが持つもの順番を決める権利。抽選で当たるが、活かす技術はない ビルダーが持つもの価値を最大限に引き出す設備と技術。ただし権利はない だから交換になる権利を買い、自分ならもっと引き出せる分を利益にする

    プロポーザーが自分で作らないのはなぜか。専門のビルダーのほうが多く引き出せるので、代金を受け取ったほうが手取りが増えることが多いからです。これが「提案者とビルダーを分ける(PBS)」という発想の出発点で、ePBSはその取引をプロトコルの中に取り込んだものです。

    支払いは3段階で動く

    ビルダーの残高から自動で差し引かれ、プロポーザーの受取アドレスへ届くまでの流れ CONSENSUS LAYER EXECUTION LAYER ビルダーの残高 10.00 ETH 9.85 ETH 支払い待ちの列 金額はここで確定 受取アドレス プロポーザーが指定 ⚙️ ルールが自動で差し引く 💰

    0 / 3
    最低 1 ETHから始められる 検証はしないステークするがバリデータではない 待ち行列なし通常の入退出キューの対象外
    BASICS

    5. 「間に合ったか」だけを見る係 —— PTC

    PTC = Payload Timeliness Committee(ペイロード適時性委員会)。ePBSで新しく生まれる役目です。

    全バリデータの中からビーコン委員会が選ばれ、さらにその中からPTCが選ばれる入れ子の図 すべてのバリデータ このスロットのビーコン委員会 PTC 512人がこの係になる
    ペイロードは時間内に来たか
    ブロブのデータは手に入るか
    🚫中身を実行して検証する

    スロットごとに、そのスロットのビーコン委員会の中から512人が選ばれ、この係を務めます。仕事は「ビルダーが約束したペイロードが時間内に届いたか」を見るだけ。中身は検証しません。だからミリ秒で終わり、締切に間に合います。重い検証は、01で見たとおり後ろへ回されます。

    💡 正直ポイント

    PTCが何人賛成すればFullと判定されるか、その閾値の数値は本サイトでは書いていません。EIP本文の定数表に載っておらず、緩和策として「2/3にすれば」という将来案が書かれている段階だからです。人数(512人)は仕様に明記されています。

    OPEN

    まだ解けていない問題

    ビルダーがペイロードを出さない選択をした場合にスロットが空になる図 出したくない 損が出そうなとき スロットが空に 体験が悪化 プロポーザーは払われるが、そのスロットは無駄になる

    Free option problem と呼ばれます。EIP本文のSecurity Considerationsにも明記されている、既知の未解決課題です。ビルダーに可変のペナルティを課す緩和策が提案されています。

    ➡️

    ここまでが「作る側」。次は、届いたブロックをどう速く検証するか。01で見た1本のレーンを、03で並列にします。

    EIP-7928 · BALs

    「どこを触るか」を、先に申告させる

    01で見た1本のレーン。あの順番待ちを、まるごと畳みます。BALs = Block-Level Access Lists(ブロック単位のアクセスリスト)。

    💡

    速くする方法は「働き者を増やす」ではありません。同じ仕事を、同時に手をつけられるようにするだけ。そのために必要なのは、始める前に行き先が分かっていることです。

    MAP

    1. 配達に例えると

    住所が分からないまま1軒ずつ配達する場合と、住所一覧があって手分けできる場合の比較 住所を知らない 🚚 🏠 ? 1軒とどけて、はじめて次の住所が分かる 1人ずつ、順番にしか動けない = いまの検証 住所一覧を先に渡される 📋 🚚🚚🚚 🏠🏠🏠 手分けして、いっせいに動ける = BALがあるとき 配達する荷物の量は同じ。変わるのは段取りだけ

    BALはこの「住所一覧」です。ブロックの中の全トランザクションが、どのアカウントとどのストレージに触るのかを、あらかじめ全部書き出しておきます。

    DEMO

    2. 同じブロックで競争させる

    上が01で見た逐次のレーン。下がBALがある場合。同じ時間軸で並べています。

    いま —— 順番に 0単位
    BALがあると —— いっせいに 0単位
    順番待ち ステートをディスクから読む EVMが計算する
    5

    下のレーンでは、ステートの読み出しが最初にまとめて走ります。行き先が全部分かっているので待つ必要がないからです。そのあとの計算も、互いに関係のないトランザクション同士なら同時に進みます。ただし全部が並列になるわけではありません。同じ場所を触るもの同士は、やはり順番を守る必要があります。

    💡

    仕事の量はまったく同じです。トランザクションの数も、読むデータも、計算の中身も変わりません。変わったのは段取りだけ。EIPによれば、トランザクションの60〜80%は互いに関係のない場所を触るので、多くが同時に進められます。

    💡 正直ポイント

    このデモの差は、構造を体感するために大きめに描いてあります。実際にこの倍率で速くなるわけではありません。検証にはBALがあっても並列にできない部分(状態のルート計算、署名の検証、BAL自体の照合など)が残りますし、どれだけ効くかはブロックの中身しだいで大きく変わります。ここで見てほしいのは倍率ではなく、「待ちが消える」という形のほうです。

    MAP

    3. BALには何が書いてあるか

    アドレスごとに、触れたストレージや残高の変化が記録される木構造 アドレス 0x1a2b… storage_changes storage_reads balance_changes nonce_changes code_changes 書き換えた場所と、後の値 読んだだけの場所 残高の変化 nonceの変化 コードの変化
    記録は「実行後」の値差分ではなく結果そのもの だから再実行が要らない読むだけで状態を更新できる 大きさは平均 約70 KiB過去データにもとづく平均。最大では1 MiB程度になりうる

    ブロックの中で触れられた全アドレスについて、この5種類が並びます。ポイントは、書き換えた場所については実行後の値そのものが入っていること。だから実行せずに状態を更新できます。

    MAP

    4. BALはどこに置かれるのか

    よく誤解されるところです。ブロックの本体には入りません。

    ヘッダにはハッシュだけが入り、BAL本体はExecutionPayloadに入ることを示す図 ブロックヘッダ parent_hash / state_root … receipts_root / gas_used … block_access_list_hash 入るのはハッシュ(短い指紋)だけ 照合 ExecutionPayload BlockAccessList 本体はこちら Engine API で受け渡される ブロックボディには入らない

    ヘッダに入るのは block_access_list_hash という短いハッシュだけ。BAL本体はブロックボディではなく ExecutionPayload のフィールドとして運ばれ、実行層クライアントが別途保存します。ヘッダのハッシュと突き合わせることで、中身がすり替えられていないと確かめられます。

    BASICS

    5. おまけでついてくるもの

    🔐 ゼロ知識証明が速くなる 依存関係が先に分かるので、証明づくりを分割して同時に走らせられる
    ⏭️ 実行せずに追いつける 後の値が書いてあるので、読むだけで状態を更新できる。同期が軽くなる
    🔮 先回りできる 触る場所が事前に分かるので、キャッシュの準備などに使える
    💡 正直ポイント

    タダではありません。BALのぶんだけブロックは大きくなり、ネットワークを流れる量が増えます(平均で約70 KiB、最大では1 MiB程度)。伝播の負荷を下げるため、BALを別便で運ぶ案(EIP-8146)も別途検討されています。また、実際には触らない場所を「読む」と嘘の申告をして、検証側に無駄なディスク読み出しをさせる攻撃が想定されています。これにはガス残量で早い段階に弾く仕組みが仕様に入っています。並列化の効きめも、ブロックの中身しだいで大きく変わります。

    ➡️

    これで2つの主役が揃いました。作る側(ePBS)と検証する側(BALs)。最後に、これが誰にどう影響するのかを見ます。

    IMPACT

    で、結局あなたに何が起きるのか

    立場によって、必要なことはまったく違います。自分のところだけ開いてください。

    🙂 ETHを持っている・使っている やることなし

    アドレスも、残高も、送金の手順も変わりません。ウォレットの設定を触る必要もありません。裏側の段取りが変わるだけで、見えるところは今までどおりです。

    🖥️ ステーカー・ノードを動かしている 準備が要る
    • 両方のクライアントを更新する合意層と実行層、どちらも上げる必要があります。片方だけでは動きません
    • PTCという新しい仕事が増える02で見た「間に合ったか」を見る係。定期的に当番が回ってくるので、対応したソフトとノードの用意が要ります
    • 検証の負荷のかかり方が変わる重い実行の検証が締切の外に移り、スロットをまたぐようになります
    🧑‍💻 アプリやコントラクトを作っている 前提の更新
    • コードの書き換えは基本的に不要後方互換です。既存のコントラクトがそのまま壊れることはありません
    • ただし値段の感覚が変わる状態を新しく作る操作、状態を読む操作、calldata、アクセスリストのコストが上がり、逆にトランザクションの基本料は下がる方向です
    • 見積もりを取り直すガス代を決め打ちしている箇所があれば、テストネットで測り直しておくのが安全です
    🌐 L2を使っている・運営している コスト構造の確認
    • BAL対応は不要BALはL2のシーケンサーからは見えない仕組みで、シーケンサー側の変更は要りません
    • calldata型は値上がりの影響を受けるcalldataの下限コストが上がるため(EIP-7976)、データをcalldataで載せているロールアップは負担が増えます。Blobを使っていれば影響は限定的です
    • 長い目では追い風L1の余裕が増えれば、L2が使えるデータ枠も広がっていきます
    STATUS

    いま、どのあたり?

    この節の「いま」は 2026年8月 時点です。ここから先は動きます

    1. 入れるEIPを決めるおおむね固まりました
    2. 開発者用のネットワークで試す2026年8月時点はここ。クライアント同士の噛み合わせを詰めています
    3. 公開テストネット誰でも参加できる環境で本番同様に動かします
    4. メインネット本番で有効化

    このサイトには日付を書いていません。予定は動くからです。最新の状況は下の2つで確認してください。

    💡 正直ポイント

    EIP-7773は本稿の時点でまだDraftステータスです。つまり「これで確定」と宣言された状態ではありません。過去のアップグレードでも、直前にEIPが外れたり、日程が数か月ずれたりしています。

    DATA

    入っているEIPは19本

    このサイトで扱ったのは、そのうち2本です。

    EIP-7732 ePBS ブロックを作る側をプロトコルに取り込む
    EIP-7928 BALs 触る場所を先に申告させて並列化する
    残り17本を見る
    • EIP-7708ETHの送金がログを出すようになる。ウォレットや履歴の追跡が楽に
    • EIP-7778返金なしのブロックガス会計。ガスの抜け道をふさぐ
    • EIP-7843スロット番号を取得する命令を追加
    • EIP-7954コントラクトの最大サイズを引き上げ
    • EIP-7976calldataの下限コストを引き上げ
    • EIP-7981アクセスリストのコストを引き上げ
    • EIP-8037状態を新しく作るコストを引き上げ
    • EIP-8038状態にアクセスするコストを引き上げ
    • EIP-2780トランザクションの基本料を引き下げ
    • EIP-7610ストレージが空でない場合のコントラクト生成を失敗させる
    • EIP-7688将来のフォークで壊れにくい合意層のデータ構造に
    • EIP-8045スラッシュされたバリデータをブロック提案から外す
    • EIP-8061出金・統合の処理枠を広げる
    • EIP-8282ビルダー向けの実行リクエスト。ePBSと関係します
    • EIP-8024スタック操作の命令を追加(後方互換)
    • EIP-7997どのチェーンでも同じアドレスになるファクトリを標準搭載
    • EIP-8246SELFDESTRUCT時のETH焼却をやめる

    値付けを変えるEIPが多いのは、01で見た「詰まっている締切」を緩めるために、重い操作の値段を実態に近づけているからです。

    STATUS

    で、速くなるの? 安くなるの?

    現在のガスリミットから段階的に引き上げていく様子を示す図 2026年8月の上限 60M gas 少しずつ 安全が確かめられた分だけ、上げていける 決めるのはバリデータの投票 Glamsterdamは「上げてもいい状態」を作るだけ。数値そのものは強制しない

    01で見たとおり、いまは締切の前がぎゅうぎゅうです。ePBSで重い仕事を後ろへ回し、BALsでその重い仕事自体を並列化する。この2つで初めて「上限を上げても大丈夫」と言える下地ができます。

    💡 正直ポイント —— よく見かける数字について

    「Glamsterdamで200M gasになる」「1万TPSになる」「MEVが70%減る」といった数字をネット上でよく見かけますが、いずれもEIPやEthereum Foundationの資料には根拠がありません。ガスリミットは今回のフォークが強制する値ではなく、バリデータが従来どおり投票で決めるものです。ePBSはMEVの量を減らす仕組みでもありません。減らすのは「リレーへの信頼」であって、MEVそのものではありません。そして手数料は最終的に需要しだいです。容量が増えても、それ以上に使われれば下がるとは限りません。

    NEXT

    今回入らなかったもの、次に来るもの

    ⏱️ スロットを6秒にする案 リアルタイムのZK証明を遅らせること、あとでスロットを組み直すなら二度手間になること、実装の成熟が足りないことを理由に見送り 見送り
    🛡️ FOCIL(検閲への耐性) ePBSと同時に入れると相互作用の検証が足りないため、次のフォーク Hegotá の主役へ 次回へ
    🐻‍❄️ Glamsterdamのあと 今回できた土台の上に、検閲耐性とさらなるスケーリングが積まれていきます これから
    合意と実行の2つのブロックが並ぶ図 合意 ePBS 作る側 実行 BALs 検証する側

    ブロックの作り方と、その検証のしかたを、同時に作り変える。

    最初の1行に戻ってきました。2つのEIPが何をしているかが、いまは具体的に見えているはずです。